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【2020年2月21日】アレルギーと日本人《後編》

《この記事の文字数:約4,900字》

ちょっと読み応えアリ

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1日延期でようやく完結!

どうも、chimonです。

 

昨日は急遽お休みをいただいたので、1日遅れとなりましたが…

 

「アレルギーと日本人」の後編をお届けします!

 

前編をまだ読んでいないという方はこちらからどうぞ。

himekuri-nippon.hatenablog.com

 

 

4. そもそもアレルギーって何だ?

前編では「花粉症は現代病」というお話をしましたが、そもそも花粉症に代表されるアレルギーって何なんだという点に触れておきましょう。

 

(1)アレルギーは一種の免疫

アレルギーを引き起こすと言われているのが、IgE抗体と呼ばれるもの。

 

抗体…?

 

 

よくインフルエンザワクチンの効果についての説明なんかで出てくる話ですが、抗体が身体に入ってきた異質な物と結合することで、体内から排除されたり免疫が働いたりという役割を果たします。

 

ということは、アレルギーも一種の免疫反応ということになりますね。

 

 

IgE抗体は、アレルギーの原因となるタンパク質(アレルゲン)に反応します。 そして、異質なアレルゲンを体外に出そうとしてアレルギー反応が起こるのです。

 

人の身体もタンパク質でできていますから、アレルゲンが体内に入ってくるっていうのは危険と判断されるのでしょうね。

 

 

身体が良かれと思ってやっていることが、当の本人にとっては迷惑な結果になっているという悲しい事態…。

 

 

(2)身体は頑張ってんだ

ここで問題になるのが、何で身体がわざわざ「ご主人様」を苦しめるようなことをやっているのか、という点。

 

本来は身体を守るために働くはずの免疫が、アレルギー反応として表出するというのには、何か原因があるはずなのです。

 

 

ちょっと話は逸れますが、先ほどご紹介した「IgE抗体」というのを発見したのは、実は日本人なんですね。

 

石坂公成(いしざかきみしげ)さんという免疫学者の方が、1966年、共同研究者だった妻・照子さんと一緒に発見しました。

 

この発見、ノーベル賞級とも称されているそう。確かに重大な発見だ。

 

 

上の話、あるところに引っかかりませんか?

 

 

 

1966年?

 

アレルギーの原因物質が判明したのはずいぶん最近という事実!

 

 

思い返してみれば、前編でご紹介した通り、スギ花粉症が発見されたのも1964年のことでした。

 

 

一連の話が意味するのは、日本においてアレルギーというもの自体が、戦後になってから一般化したものだということ。

 

今では当たり前のアレルギーですが、広まったのは意外と最近のことなんですね。

 

 

(3)存在自体は古くからあったアレルギー

ただ、普通に考えて、アレルギーが最近になって誕生したとは考えづらい。

 

だって、昔から誰かしらアレルギーにはなっていたはずでしょう?

 

 

新しいウイルスが突然変異で生まれたなんて話ならまだしも、人の身体に原因があるわけで。有史時代になってから、人の身体がそんなに変化したとも考えにくいですよね。

 

と思ったら、やっぱりアレルギー自体は昔からあった模様。

 

 

日本ハムのホームページに、簡単なアレルギーの歴史がまとめられていました。

www.food-allergy.jp

 

これを見る限り、紀元前からアレルギーと思しき事例はあるみたいですね。

 

で、前編で触れた通り、19世紀のイギリスで「枯草熱(こそうねつ)」が発見され…20世紀初頭には、ドイツ・スウェーデン・フランス・アメリカで牛乳によるアナフィラキシーショックが報告されているそうです。

 

 

5. 働き過ぎは毒なのよ

(1)日本最古のアレルギー性鼻炎薬「鼻療」

日本でも20世紀になるとアレルギーの存在が知られ始めていたようで、大正8(1919)年、東京上野の建林松鶴堂からアレルギー性鼻炎薬「鼻療(びりょう)」が発売されました。

 

エキサイトニュースの記事で特集されているので、参考までに。

www.excite.co.jp

 

薬が必要になるってことは、戦前からアレルギーに苦しんでいた人は一定数いたということでしょうね。

 

ダニとか、それこそ花粉とかっていうのは時代に関わらず存在していたでしょうから、少数派だったにせよ、免疫の過剰反応を表す人もいたでしょう。

 

 

(2)食物エネルギー、現る

ところで、現代でアレルギーと言うと真っ先に思いつくのが、食物エネルギーですよね。

 

卵、牛乳、小麦、大豆、米、そば…

 

小児アレルギーの代表格でもあります。

 

 

日本において食物アレルギーが提唱されるようになったのも、やはり高度経済成長期の1970年ごろだそう。

 

スギ花粉症やIgE抗体の発見と同年代ですね!

 

 

改めて、この時代にアレルギーが日本の国民病化したと見て間違いなさそうです。

 

 

(3)IgEがのびのび働ける環境

じゃあ、なぜこの時代にアレルギーが増えたのか。

 

 

原因として考えられるのが、前編の最後にお伝えした「食の欧米化」衛生環境の改善です。

 

 

一部研究段階の話もあるので、推論も多いようなのですが…

 

 

まず、食の欧米化によって、タンパク質由来の食べ物が増加しました。私たちは当たり前のように卵や小麦を食べていますが、戦前までそのようなことはありませんでした。

 

アレルゲンにもなるタンパク質との接触が増えたことにより、アレルギーが発生しやすい状況になったと言えるのです。

 

 

 

もう1つの衛生環境の改善というのは、2つの側面でアレルギー増加に影響していると考えられます。

 

 

1つは、身体を清潔に保てるようになった分、皮膚が乾燥している人が増えたというもの。

 

免疫機能が働いて抗体が作られることを「感作(かんさ)」と言うのですが、皮膚を通じた「経皮感作」の存在が明らかになっています。

 

www.machida.tokyo.med.or.jp

 

通常、皮膚の表面は角膜で覆われているので、異質な物が付着しても体内に入ってくることはありません。

 

しかし、表面が乾燥していると角質の隙間ができてしまい、そこからアレルゲンが侵入することはあるらしいのです。

 

 

例えば、どこかの皮膚に卵由来のものが触れてアレルゲンが身体に侵入したとします。

 

すると免疫機能が働いて、一種の学習をしてしまうんですね。これが働いちゃうと、口から食べ物として摂取した時にも、同様のアレルギー反応が起こってしまうというわけ。

 

なお、こうした経緯から、アレルギーを防ぐためには保湿が欠かせないそうな。

 

 

ふむふむ。

 

 

で、もう1つの側面に関しては、次の章でご紹介していきます。

 

 

6. 知らない方が良いこともある

(1)知っちゃうと気になっちゃう

衛生環境の改善がアレルギー増加に影響したもう1つの側面とは、人々が過度に衛生的であることを求めるようになったというもの。

 

特に、子供に対しての意識が高まり過ぎた側面があります。

 

 

 

ちょっと話は変わりますが、アレルギーはIgE抗体が反応することで起こるもの…。

 

抗体は最初から身体にあるわけだから、血液中のIgE抗体を調べれば、その人が何のアレルギーを発症するか分かるんじゃない?!

 

こんな考えから「RAST」という検査法が発見されます。いわゆるアレルギー検査ですね。

 

RASTについて詳しく知りたいという、医学マニアの方(笑)がいたらこちらをどうぞ。

www.erca.go.jp

 

上記の解説にも書かれているのですが、RASTっていうのは「あるアレルゲンに対するIgE抗体を持っているかどうか」を数値化するもの。

 

要するに「感作」が起こっているかどうか、というのを調べるものでしかないんですね。

 

 

難しくなっちゃったので簡単に言いますと…笑

 

 

RASTで陽性が出たとしても、それはあくまでも抗体がありますよということでしかないので、必ずしもアレルギー反応が出ることを表してはいないということ。

 

実際、数値が高くてもアレルギーが出ないこともあるし、反対に数値が小さいにも関わらず激烈な症状が出ることもあるらしいのです。

 

 

しかし…

 

あなた自身が小さい子供を持っている親の気持ちになってみてください…

 

小さい子供をRASTで検査して、卵に対して陽性が出たとしましょう。

 

どうします?

 

 

 

 

そうですよね…卵抜きますわな…。

 

 

 

 

これが問題なんです。

 

先ほど言った通り、陽性が出たからと言ってアレルギーが起きるわけではないのですが、陽性って聞いたら避けたくなるのが親心ってもんです。

 

 

つまり、衛生状態が良くなり過ぎて、必要以上に敏感になってしまったというわけ。

 

 

(2)食べる方が良いのか…?

厚生労働省が発表している資料の中に、次のような話が掲載されています。

食物アレルギーは小児から成人まで認められますが、その大部分は乳児期に発症し、小児期に年齢ともに寛解していくケースが殆どを占めます。小児型の食物アレルギーは、年齢別では1才前後に最も多く認められ抗原としては卵・牛乳・小麦・大豆が主要アレルゲンです。小児型の特徴は耐性の獲得といい自然に良くなることで、大部分の症例で年月の差はあっても自然寛解していくことです。すなわち、1才時に食物アレルギーと診断されてもそのうちの9割の人は遅くとも小学校入学時までには自然寛解すると考えられています。残りの1割の患者さんの中には一生卵が食べられな い・牛乳が飲めないという人もいることは事実です。

 

厚生労働省の下記資料より抜粋

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf

 

もともと乳児にとって、身体に入ってくる食べ物は全て異物です。

 

特にタンパク質に関しては、とりあえず抗体が作られるというのは当然のことなんでしょう。

 

 

でも食べなきゃ死んでしまうので、食べているうちに「これは危ないものではないので、食べても大丈夫です!」と伝える働きをする、別の抗体が作られるらしいのです。

 

 

ここまでの話を総合すると、RAST検査の結果を意識し過ぎるあまり、子供からアレルゲンとなる食べ物を取り上げてしまった結果、食物アレルギーが増えてしまったという背景があるのですね。

 

知り過ぎも考えものなのですな…。

 

 

7. 花粉症に戻そうか

花粉症からアレルギー一般の話へと展開してきましたが、最後にもう一度花粉症の話をしておきましょう。

 

 

花粉症が国民病となって以来、官民ともに花粉症の解消に向けて動いてきました。

 

その結果、現在では「2050年ごろに花粉の大量飛散は終わり、100年後には花粉症がなくなっている」という仮説が立てられるほどになっています。

 

・参考:スギと花粉と日本人 :日本経済新聞

 

だいぶ先ではありますが、花粉症が無い世界っていうのが現実になろうとしているのですね。

 

 

8. まとめ

長くなってしまったので、最後にちょっと前後編の内容を振り返ってみましょうか。

 

  • スギは日本固有種。そのため、スギ花粉症は日本でしか見られない。
  • 一方で、世界各地には土着の花粉症が多数存在する。
  • スギ花粉症が発見されたのは1964年のことであり、現代病と言える。
  • スギ花粉症を含むアレルギーは、抗体による免疫反応の一つ。
  • アレルギーそのものは紀元前からあったと考えられるが、本格的に広がったのは20世紀になってから。
  • 日本では、戦後に食物アレルギーが広く見られるようになった。
  • こうしたアレルギーが広がった原因として考えられるのは、食の欧米化衛生環境の改善
  • RAST検査が広がったことが、子供の食物アレルギー増加に影響しているとも考えられる。

 

戦後の木材不足で植えられたスギによって拡大した花粉症に、戦後の生活の質向上によって拡大した食物アレルギー。

 

最初に提起した【何で身体がわざわざ「ご主人様」を苦しめるようなことをやっているのか】の答えは、「ご主人様」である私たち自身が、身体にとって慣れないことを強いてしまったからということでしょうか。

 

 

ヒトの遺伝子は、10万年前くらいからほとんど変わっていないそうです。

 

それにも関わらず、文明は大きく進歩してきました。

 

「シンギュラリティ」なんて言いますが、人間の生み出した環境は、これまでも人間の体の限界を超えてきたのかもしれません。

 

 

ちょっと感慨深くなったので、この辺りで終わり!

 

では!

 

 

▲ ▲

・ ・

 ▽

chimon

 

 

(参考URL)

・にしむら小児科「食物アレルギーが増えたワケ」

 http://www009.upp.so-net.ne.jp/tatsuo/allergy_rekisi.html

 

 

※本ブログの記事は、参考文献等の記載事項を基にして筆者独自の考えを交えて展開するものです。歴史的事象には諸説あるものが多いため、あくまでも一つの説として捉えていただきますようお願いいたします。