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【2020年5月1日】ちょっとティーブレイクVol.6〜夏も近づく八十八夜♪何で茶摘みはこの時期なの?〜

《この記事の文字数:約4,400》

 ちょっと読み応えアリ

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最近は日本茶ネタ多め。

どうも、chimonです。

 

2020年5月1日は「八十八夜」

 

「夏も近づく八十八夜〜♪」でおなじみ、茶摘みのシーズン到来です。

 

そこで今日は「ちょっとティーブレイク」の第6弾!

 

何で茶摘みがこの時期なのか?というお話を中心に、実は不思議な植物・チャについてご紹介していきます。

 

1. 茶摘みが八十八夜に行われるワケ

(1)「お茶」って言っても色々ある

本題に入る前に、表記方法についてお話ししておきたいと思います。

 

 

突然ですが「茶」といった場合、皆さんは何を想像するでしょうか?

 

 

日本茶を想像する人もいれば、紅茶や烏龍茶なんかを想像する人もいるかもしれません。

 

麦茶を想像する人もいるかもしれないですね。

 

 

何が言いたいかと申しますと、「茶」と一口に言っても、必ずしも「茶葉によるお茶」を示すわけではない、ということなのです。

 

 

そこで、このブログでは次のように表記を分けて解説していきます。

  • お茶急須で淹れた、飲み物としての日本の緑茶
  •  :製品としての日本の緑茶
  • チャ植物としてのチャノキ 

 

日本の緑茶以外は、基本的に「紅茶」「烏龍茶」といった具合にそれぞれの名前で表記します。

 

また、麦茶やハーブティーは「チャノキ由来の茶葉を使った飲み物ではない」ので、このブログでは扱いません。

 

 

よろしくです!笑

 

 

(2)あったかい場所生まれのチャ

それでは本題と参りましょう!

 

なぜ八十八夜の時期に茶摘みがスタートするのか、という点を考えるにあたっては、チャがどんな植物なのかを理解しておく必要があります。

 

 

前回こちらの記事でご紹介した通り、チャの原産地は中国・雲南省あたりと言われています。

himekuri-nippon.hatenablog.com

 

雲南省は中国の南部、ベトナムラオスミャンマーとの国境地帯。

 

この辺りは通称「ゴールデン・トライアングル」とも呼ばれ、非常に多くの動植物が生息する、言わば「生物の楽園」。

 

チャ以外にも、当地域が原産とされる植物は数多くあるんだそうです。

 

 

それだけ多くの動植物が生息するってことは、要するに気候がいいのです。

 

 

夏は涼しく、冬は暖かい。

 

 

温暖な気候の中で生まれたチャは、当然のごとく寒さに弱い植物です。

 

 

だから、日本の大部分は、チャにとってはちょっと寒いくらいなはずなんですね。

 

 

日本で多く栽培されている「中国種」は比較的寒さに強い品種ではあるんですが、それでも栽培の北限は青森あたり。

 

北海道にも生息している例はあるんですが、寒すぎて商品化は難しいのです。

 

 

(3)チャは冬眠する?!

寒いのが苦手なチャにとって、日本の冬は寒すぎる!

 

ということで、チャは「冬眠」します。

 

 

一般的には「休眠」と言うんですが、だいたい12月〜2月ごろまで(地域による)養分を蓄えて、じっと春を待つワケです。

 

 

ツバキ科の常緑樹なので、冬でも葉っぱが落ちることはありません。

 

 

そして暖かくなってきた4月初めごろに、「萌芽」を迎えます。

 

要は、「あったかくなってきたぜ、ひゃっほーい!」と言わんばかりに、新芽を出すってことですね。笑

 

 

新芽が顔を出すと、おおよそ5日に1枚くらいの割合で新しい葉っぱが出てきます。

 

若葉が4〜5枚出てきたら、いよいよ茶摘みのシーズン到来!

 

 

つまり、4月初めの萌芽から20日程度経った八十八夜の時期に、茶摘みがスタートというわけなのです。

 

 

八十八夜っていうのは「立春から88日目」を指すんでしたよね!

himekuri-nippon.hatenablog.com

 

 

新茶を摘み採る際は「一芯二葉(いっしんによう)」と言って、新芽+上から2枚目の茶葉までを摘むのが一般的。

 

こうやって丁寧に摘んだ新茶は「一番茶」とも呼ばれ、最も品質の良い美味しいお茶と言われます。

 

 

(4)二番茶、三番茶

一番茶を収穫すると、残った茶葉の付け根から新しい芽が生えてきます。

 

ということは、またその新芽から葉っぱが出てくるわけで…

 

もう一回茶葉を収穫できますよね!

 

 

こうして一番茶の次に採れる茶のことを「二番茶」と呼びます。

 

 

一番茶の収穫から二番茶の収穫までは、だいたい50日程度と言われています。

 

 

もちろん二番茶の後には三番茶が控えているわけですが…季節が進めばどんどん気温が高くなり、茶の生長スピードが上がっていくため、二番茶から三番茶までの期間は30〜40日程度とスパンが短くなるみたい。

 

 

こうやって考えると、冬の休眠期間が到来するまでは、どんどん収穫ができることになり…「四番茶」「五番茶」っていきそうですが…そうはいかないのです。

 

 

例えば、chimonの故郷で作られる狭山茶」は、一般的に二番茶までしか収穫しません。

 

と言うのも、埼玉県の狭山地方は、チャが生息するには寒冷な地域。

 

夏に二番茶の収穫が行われると、次の三番茶ができる頃には気温が下がり始めてしまうのです…。

 

 

一方で、鹿児島などの温暖な地域では、もちろん「n番茶」ってのが採れる場所もあります。

 

多くの地域で、年に4回程度〜収穫するのが一般的。

 

 

特に、秋から冬の休眠時期間際に収穫されるものは「秋冬(しゅうとう)番茶」と呼ばれます。

 

 

「美味しくて品質がいい」ということで一番茶にばかり目が行きがちですが、秋冬番茶には一番茶にない魅力もあるんです。

 

 

まあ「日本人は初物好き」なので、「新茶」って聞くと心が疼くんでしょうね。笑

 

 

 

ちなみに、鹿児島などの温暖な産地では「早生種(わせしゅ)」と呼ばれる、もっと早い時期に収穫できる品種も栽培されています。

 

八十八夜よりも前、4月中に「新茶」って文字があったら「ああ、早生種なのね」と思っておけば良いかと!

 

 

2. チャさんは恋愛する植物

(1)自分と違う種類の異性に惹かれるって、あるよね

八十八夜に茶摘みする理由がわかったところで、もう一つ、植物的なチャの面白い特徴をご紹介します。

 

 

チャって、自家不和合性を持つ他殖性植物なんです。

 

 

「は…?」

 

 

という声が今にも聞こえてきそうですが、ちゃんと説明しますから!笑

 

 

簡単に言うと「自分のおしべとめしべ同士では(基本的に)受粉しない」ということ。

 

まあ動物と同じような話で、異なる遺伝子を持つ個体の花粉で受粉した方が、生物的に生き残れる確率が上がりますもんね。合理的。

 

 

ただ、チャの場合には、この自家不和合性がかなり強く働くという性質がありまして…

 

自家受粉する可能性はわずか数%、さらにそうやって出来た実の発芽率も10%程度だそう。

 

ということは、自家受粉したところでほとんど実を結ばない!!という徹底ぶりなのです。。

 

 

(2)お茶界の大発明「挿し木」

これって、栽培植物としてはなかなか大きな問題。

 

なぜなら、同じ品種で安定的に栽培しようとしても自家受粉できないため、普通に増産しようとすると他品種と交配しなければならず、雑種になっていってしまうからなのです。

 

雑種になるということは、ある年は「出来のいい品種ができて万歳!」と思ってたら、次の年に交配させたヤツは「ダメダメのショボショボだよ…」となる可能性があります。ちっとも安定せん!!!

 

 

実際、昭和になるまで、お茶の栽培って運任せ的な要素も大きかったみたい。

 

 

実から育てた品質の異なる茶畑から、高品質の茶葉を選んで一つひとつ手摘みする…というアナログ農業だったんですね。

 

 

ところが、昭和に入って農業の機械化が進んでくると、今までのやり方では効率が悪くなってしまいます。

 

しかも、どんなに高品質の茶葉を作れたとしても、増産することができない…

 

 

 

どうにかならんかね?!

 

 

 

そこで、1936年に開発されたのが「挿し木繁殖法」でした。

 

 

種から育てるんじゃなく、すでにあるチャの樹から挿し木で苗木を育て、それを繁殖させて増やすという方法です。

 

 

 

こうすれば、自家不和合性の強いチャでも、安定的に同一品種を栽培することができるというわけ!

 

 

かれこれ、古代より1000年以上、種から栽培されてきたらしいので、大革命だったと言っても過言ではありません。

 

 

(3)日本のトップ品種「やぶきた」

挿し木繁殖法が確立したことで、品種ごとの栽培が可能になりました。

 

その結果、寒さや天候の変化に強く、収穫量の多い優秀な品種が全国で盛んに栽培されるようになっていきます。

 

 

代表的な品種が「やぶきた」です!

 

 

お茶屋さんで見たことがある人も多いのではないでしょうか?

 

 

 

それもそのはず。

 

なんと日本全国のチャの作付け面積のうち、なんと約3/4をやぶきたが占めているのです!!!

 

ほとんどやないかい!!

 

 

やぶきたは明治の終わり頃に静岡で生まれた品種で、戦後まもない時期に農林水産省の登録品種となったことにより、全国で栽培されるようになりました。

 

 

これだけ単一品種が全国で栽培されている植物ってのも、なかなか珍しいんじゃない?!

 

 

高品質だけあって、日本人の好みに合ったバランスのいい味が特徴。

 

 

あと、同じやぶきたでも、育つ地域によって味が少しずつ違いますから、ちゃんと産地ごとに特色はあるんですよ。

 

じゃなきゃ、どこで作っても同じ、って話になっちゃいますからね!

 

 

(4)今後は品種が多様化するかも?

ただ、商業的な茶樹の寿命は50年程度と言われているので、高度経済成長期あたりから植えられた茶樹は、ちょうど植え替えの時期に差しかかってるんです。

 

 

時を経るにつれて、優秀な新しい品種もどんどん生まれています。

 

 

ということで、今後やぶきた以外の品種のシェアが増えて、品種がどんどん多様化するのではないかという見方もあるのです。

 

 

また、一部では「シングルオリジン」の波がお茶にも見られます。

 

 

この辺りは改めて特集しますが、一般的に消費者のもとに届くお茶というのは、複数の茶葉をブレンドしてることが多いのです。

 

 

お茶屋さんが、茶葉ごとの品質を見極めてブレンドすることにより、年ごとの品質にバラツキが出ないようにしてるんですね。結構、特殊な部分ではあるので、改めて特集します…(大事なことなので2度言いました。笑)

 

 

シングルオリジンというのは、このブレンドをしない「単一品種の茶葉」で勝負するってこと。

 

 

年によって出来不出来が変わってくるのですが、それこそが自然のお茶のあるべき姿、という考え方もあり、徐々に広まりつつあります。

 

 

コーヒーと一緒ですね。

 

 

何なら、ワインみたいな感覚かも。

 

 

3. おわりに

今日は八十八夜、ということでチャという植物について掘り下げてきました。

 

ね、面白いでしょ?笑

 

 

この記事を通して、一人でも多くの方がお茶に興味を持ってくれたなら、嬉しい限りです!

 

 

次回は、お茶の品種や産地、もしくは流通のお話かな…?

 

 

せっかくだから、自粛疲れの毎日に、新茶でリラックスタイムを取り入れてみましょう!

 

 

#おうちで過ごすならお茶を飲もう!笑

 

 

(参考文献)

日本茶検定委員会監修、日本茶インストラクター協会企画・編集『日本茶のすべてがわかる本 日本茶検定公式テキスト』農山漁村文化協会, 2008

 

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chimon

 

 

※本ブログの記事は、参考文献等の記載事項を基にして筆者独自の考えを交えて展開するものです。歴史的事象には諸説あるものが多いため、あくまでも一つの説として捉えていただきますようお願いいたします。